暑い夏の一夜の話。
その日は、すぐ200m先に砂浜がある友人の家に男女4人で集まった。
大学の夏休み。
近くに店はないから、それぞれが持ち寄ったお酒とおつまみで酌み交わす。
よくある宅飲みの光景だ。
部屋はなかなかに狭い。6畳ぐらいはあるのだろうが、二段ベットが置いてあったりテレビがあったりと、4人ではなかなか窮屈だ。しかも暑い。
それでも、怖い話や学校の面白い教授の話題で盛り上がっていると、あっという間に時間が過ぎていった。
・・・気づけばもう深夜の1時だ。
仲間の一人は、隣でうとうとし出している。
そんな時一人が言った。・・海に行こう!
結構みんないい具合に酔っている。海が近いのが何よりの救いに感じた。各々が片手にビールや缶チューハイを持ちながら、ノロノロと歩き出す。
海にはほんの数分で着いた。ザザァーという静かな波の音だけが聞こえる。
波は随分穏やかで、おまけに空は満点の星。いくら田舎とはいえ、こんな吸い込まれるような星空が観れるのはまれだし、そこは本当に素敵な空間だった。
砂浜と海の境界には、いくつものテトラポッドがあり、僕たちはそこによじ登ることに決めた。
こんな風にテトラポッドに登るのは初めてだったが、ひんやり冷たく、ケータイやお酒の缶をちょうどよく置ける場所もある。たまに水しぶきが飛んでくることを除けば、意外と心地よかった。
しばらくの間は各々夜空を眺めていたりしていて、変わらず波の音だけが聞こえていたが、また仲間の一人が口を開く。
大人になること、将来の夢について話さない?
すごくいい話題だと思った。その頃は、僕も含めてみんな“大人”になることや“将来”についてひどく感心を持っていたから。
ひとりずつゆっくりと話だす。最後は僕の番だった。
もう酔いは完全に冷めていたと思う。時計を見れば4時。なんだか外は薄明るくなってきた。
自分がその時考えた“大人”になること、“将来”の展望を一生懸命話したと思う。
この後自分がどんな道を進むかなんてまるで分からなかったけど、家族を持つこととか、そんなイメージも含めて全部。
だんだんと朝日が昇ってきて、とりの鳴き声も聞こえ出していた。
あれから10年。僕は“大人”になったのかな。あの時想像した“将来”の自分にはなれたのかな。
今日の夜空は、あの時観たような満点の星空。
minarai